トップ / 医学生/研修医の皆様 / ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在 / 脊椎を含む筋・骨格性疼痛

ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在

脊椎を含む筋・骨格性疼痛(頸肩腕部の痛み及び腰下肢痛)

頸肩腕部の痛みの原因となる疾患は、椎間板ヘルニアや頸椎の変形に由来する頸椎症や頸髄症、椎間関節や肩関節に由来する関節症、末梢神経の障害、外傷が原因と考えられるものなど、非常に多彩です。重い頭と躯幹を連結している頸椎は、解剖学的にも負荷がかかりやすく、そのうえ外力や加齢によっても構築上の変化を生じます。神経学的に、頸神経は一部の脳神経とも密接な関係を保っており、頸神経の障害は眩暈や耳鳴、顔面痛などの脳神経症状をもたらすこともあります。

腰下肢痛を来す疾患は、病理解剖学的にも病態生理学的にも多種多様です。腹部内臓器・血管・神経・運動器それぞれの循環障害、物質代謝障害、炎症、腫瘍、外傷により腰下肢痛が生じ、それに二次的変化および心因性のものが加わり複雑な様相を呈します。

頸椎椎間板ヘルニア

頸椎椎間板の髄核が脊柱管内に脱出する病態です。脊柱管内に脱出する方向により、神経根を圧迫すると首から肩に激痛が走り、脊髄圧迫すると痙性歩行、膀胱直腸障害を引き起こします。発生部位は下部経椎間が多く、男性、40~50歳代に多いと言われています。

頸椎症性神経根症

加齢などで頸椎症性の変化が起こると、椎間孔周辺に骨棘などが形成され、神経根が絞扼されます。初発症状は頚部痛であることが多く、後に上肢の持続痛や放散痛、しびれが出現します。トリガーポイント注射、星状神経節ブロック、頚部硬膜外ブロック、神経根ブロック、腕神経叢ブロック、椎間板内ステロイド注入、経皮的髄核的摘出術などを行います。

頸椎椎間関節症

頚部脊柱管の後方支持と前後屈・回旋運動に関わる椎間関節あるいはその周囲から生じる痛みで、関節構造物の一部が関節内に絞扼されたり、炎症や関節症性変化によって起こったりします。椎間関節ブロック(関節注入法・後肢内側枝ブロック法)、後枝内側枝高周波熱凝固などを行います。慢性期には理学療法(温熱療法や電気療法)を行い、頚部筋群の筋力増強訓練を行います。

腰椎椎間板ヘルニア

椎間板の髄核や線維輪が脊柱管内や椎間孔内外に転位して、馬尾神経あるいは神経根に障害が生じている状態です。症状は、腰痛、下肢痛、下肢のしびれ、筋力低下、膀胱直腸障害などです。神経ブロックの適応は、急性期および慢性期の下肢痛、腰痛の急性期痛であり、慢性期の腰痛も症例によっては適応になります。神経ブロック療法には、腰部硬膜外ブロック・仙骨ブロック、神経根ブロック、トリガーポイント注射、大腰筋筋溝ブロック、末梢神経ブロック、椎間板内高周波熱凝固があります。インターベンショナル治療法には、椎間板ブロックおよびヘルニア腫瘤内加圧注入法、経皮的髄核摘出術、経皮的レーザー椎間板除圧術、脊柱管内治療などがあげられます。

図:仙骨ブロックの穿刺部分

図.仙骨ブロックの穿刺部分を示します。仙骨角に挟まれた仙骨裂孔にブロック針を刺入します。

図:仙骨裂孔の超音波検査画像

図.仙骨裂孔の超音波検査画像を示します。仙骨角の間にある仙尾靭帯の下が硬膜外腔につながります。仙骨ブロックの際は、ブロック針を仙尾靭帯の下に刺入し、局所麻酔薬などを注入します。

腰部脊柱管狭窄症

骨性、椎間板性、および靭帯性の様々な要因により、腰椎部の脊柱管、神経根管、椎間孔に狭窄が生じた結果、馬尾、神経根が障害されて、腰痛、下肢痛、下肢のしびれ・異常感覚、神経性間欠跛行、下肢運動麻痺、膀胱直腸障害などの症状を呈する症候群です。痛みやその関連した神経性間欠跛行、下肢のしびれ・異常感覚などは神経ブロックの適応となり、各症状に応じた神経ブロック療法を行います。硬膜外ブロック・仙骨ブロック、神経根ブロック、大腰筋筋溝ブロック、腰部交感神経節ブロック、トリガーポイント注射などを行います。

図:腰部交感神経節ブロックの様子

図.腰部交感神経節ブロックの様子です。レントゲン装置を使いながら、ブロック針を刺入します。

図:ブロックを行う前後のサーモグラフィ検査の画像

図.ブロックを行う前後のサーモグラフィ検査の画像です。左側に腰部交感神経節ブロックを行っています。ブロックを行うと交感神経が遮断され、下肢の血流が増え、温度が上昇します。腰部脊柱管狭窄症の神経性間欠跛行などに効果が期待できます。

変形性腰椎症

椎体、椎間板、椎間関節の加齢変化より腰下肢痛をきたす疾患で、主にX線画像所見を基に診断されます。椎間板の変性によって椎間腔の狭小化、椎体縁の骨硬化や骨棘形成が生じ、椎間関節への負荷の増大から関節症性変化をきたし、変形すべり症となります。さらに進行すると椎間関節包や周囲組織の肥厚、椎体変形により脊柱管狭窄が起こり、腰痛、神経根症、下肢痛、下肢のしびれや筋力低下などが生じます。この疾患は椎間関節症やすべり症、脊柱管狭窄症、椎間板性腰痛などを内包するため、それぞれの病態に応じた治療を選択することになります。

図:神経根ブロック・神経根造影のレントゲン透視画像

図.神経根ブロック・神経根造影のレントゲン透視画像です。ブロック針を神経に穿刺し造影剤を注入しています。神経が造影された後、局所麻酔薬など注入して治療します。

腰椎椎間関節症

腰椎椎間関節に起因する腰痛です。椎間関節捻挫(いわゆるぎっくり腰)などがあります。急性期には体動不可となるが神経学的所見がなく、慢性期には安静時はないが運動時に痛みが増強するなどが特徴です。椎間関節ブロック、後枝内側枝ブロック、腰部硬膜外ブロックトリガーポイント注射などがあります。

骨粗鬆症

骨量減少と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し骨折の危険性が増大した状態です。圧迫骨折が発生すると腰背部痛が出現します。主に骨粗鬆症の治療は腰背部痛に対して行います。治療法として、薬物療法、神経ブロック療法、手術療法、理学療法、装具療法などがあり、単独よりも併用で行われることが多く行われます。神経ブロック療法は、神経根ブロック、脊髄神経後枝ブロック、傍脊椎神経ブロックなどがあげられます。インターベンショナル治療として、椎体形成術、椎体減圧術(椎体穿孔術)があります。

筋筋膜性疼痛症候群

筋硬結とトリガーポイントを特徴とした筋由来の痛みと考えられています。トリガーポイントは、骨格筋または筋膜の硬結に存在する極めて敏感性の高い部分、圧迫されると痛みが生じ、関連痛や自律神経症状を引き起こす部位と定義されています。硬結には、筋肉繊維に並行する帯状・ひも状・結節状のものとされていますが組織学的な解明はされていません。急性期には、抗炎症作用のある薬物療法や、トリガーポイントに対して局所麻酔薬や生理食塩水などを用いた注射を行います。痛みが慢性化すると、リハビリテーションや心理社会的因子を配慮した対応が必要です。


参考文献:
1)
日本ペインクリニック学会治療指針検討委員会編、ペインクリニック治療指針改訂第5版
このページの先頭へ